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砂防ダムの構造の名称と役割について解説!正式名称も紹介
2022年12月26日
砂防ダムこの言葉に聞き覚えはあるかと思いますが、実はこの名称は正式ではありません。
皆さんは、ご存知だったでしょうか?
「ダム」には定義があり、砂防ダムはその定義から外れています。
また、この砂防ダムに関するものの名称は普段あまり耳にする機会のない言葉です。
ただし、土木関係者であれば理解しておかなければなりません。
そこで今回は、砂防ダムの正式名称とその構造の名称やその役割について解説します。
砂防ダムの正式名称とは?|正しい名前がある
砂防ダムの正式名称は砂防堰堤です。
砂防堰堤は河川の土砂災害を防ぐ目的で、河川上流の渓流などに設置される治水施設です。
下流の河川への土石流などを食い止める役割を持っています。
一般的な貯水ダムとは異なり、水を溜めるダムではなく、土砂災害時などに土石流をせき止め下流の被害を抑えるのが目的です。
ダムとは?|目的は水量調節
ダムと堰堤の最も大きな違いは大きさです。
ダムは貯水や河川の水量調節を目的としており、高さが15m以上のものをいいます。
ダムの主たる役割は生活・農業用水の供給や水量の調節、環境保全、発電です。
ダムと堰堤(えんてい)が明確に区別されたのは1964年に「新河川法」が施行されてからです。
そのためそれ以前に作られたものは堰堤と呼ぶケースもあります。
洪水を防ぐダムは治水ダム、農業や水道用水、発電に使用されるものは利水ダムと呼ばれます。
堰堤(えんてい)とは?|目的は流れを緩やかに
堰堤とは、河川の水などを堰き止めるためのものです。
辞書などではダムと同列に扱われていますが、堰堤はダムよりも小規模なので水は溜められません。
主な役割は土砂災害の防止です。
山間部などで土砂の流出を防ぐために砂防ダムを作るケースがありますが、既出の通り、正式名称は「砂防堰堤」です。
砂防堰堤でも15mを超えるものもありますが、ダムのように水を溜めないために堰堤に分けられます。
ダムと堰堤(えんてい)の違い|大きさや発電能力など
一般的には、高さが15m以上であればダム、それ以下の場合は堰堤と分類されます。
ただし、新河川法が制定される1964年以前に完成しているダムは堰堤と呼ぶ場合もあります。
また、ダムは貯水量が多いので水力発電ができますが、堰堤には貯水機能自体がありません。
さらに法律にも違いがありダムは「河川法」の適用になりますが、堰堤は「砂防法」を適用します。
砂防ダムの形式の名称について|大きく分けて3つ
砂防ダムの、形式の名称には大きく分けて以下の3種類があります。
● コンクリートダム
● 鋼製ダム
● ブロックダム
これら3つの中でも、さらにいくつかに分類されます。
ここからは、一つずつ詳しく見ていきましょう。
コンクリートダム|大きく分けて2つ
コンクリートダムはコンクリートクローズダムとコンクリートスリットダムに分けられます。
コンクリートクローズダムは、一般的な砂防ダムで、コンクリートの重量を活かし土石流を食い止め、土砂を溜めます。
洪水時にもスリット部は閉じず、せき止めた効果で流れを減少させて土砂を溜めるタイプです。
コンクリートスリットダムは、コンクリートクローズダムと同タイプです。
中央部にスリットがあり、そこから通常時は土砂を流し、洪水時は土石流を抑え込みます。
鋼製ダム|3つのタイプに分けられる
鋼製ダムは、鋼製枠ダム・鋼製セルダム・鋼製スリットダムの3つに分けられます。
鋼製枠ダムは、鋼材の枠を組み、その中に玉石などを詰めたものです。
地すべりが起こりやすい場所や地盤の悪い場所に用いられます。
鋼製セルダムは、鋼材で作られた円筒の中に土砂を詰め込んだもので、詰め込む土砂には残土も使用できます。
鋼製スリットダムは、鋼管を公園にあるジャングルジムのように組み合わせたものです。
土石流はもちろん流木も食い止められます。
ブロックダム
名前の通り、護床工などに使うブロックを堰堤形状に積み上げ土砂の流失を防ぐ砂防ダムです。
通常のコンクリートダムよりも局所的な変化に対応できます。
地すべり地内に設置するケースが多いです。
砂防ダムの各部の名称と役割
砂防ダムの多くは、中央部が低くくびれたTシャツに似ており、中央の低くなった所を水通しといいます。
その水通しの左右が若干高くなっておりダムの袖部です。
その各部を詳しく見ていきましょう。
水通し|その名の通り
砂防ダムの放水路です。
対象となる流量を流せる十分な断面を有し、そのうえで上下流の地形や渓床の状態、流水の方向を十分に考えその位置を決定します。
水通しの幅は河幅を考慮し、高さは計画水位に余裕を加えた高さにします。
放水路の形状はさまざまあるが、一般的に用いられるのは逆台形です。
水抜き穴|水圧を減らすのが目的
背後の地盤に湧き水が多い場合や盛土のケースなどに護岸に開ける穴です。
水圧による外力を減らすために開けるもので、水抜き穴は2㎡あたり1個程度必要です。
穴の内径が小さ過ぎると土砂などが詰まる可能性があるので、直径5cm以上とします。
資材は耐水材料が望ましいとされ、穴の位置は湧き水の状態などを考慮して決定します。
袖|服の袖と似ている
既出のように、砂防ダムにおいて、水通し部の左右に隣接する部分です。
両側の袖は上流の河道に沿うので必ずしも対象とは限りません。
土石流の衝撃を受ける可能性のある区間では導流堤などで袖への直撃を避ける必要があるケースがあります。
まとめ
砂防ダムの各部にはあまり聞き慣れない名称がついています。
しかし、土木関係に携わっているのであれば、どれも理解しておかなければなりません。
また、高さが15m以上あればダムでそれ以下は堰堤(えんてい)です。
一般的には砂防ダムと呼ばれていますが、本来は砂防堰堤だと頭に入れておきましょう。